冠動脈バイパス術とは?

心臓の栄養血管である冠動脈に狭窄や閉塞が起こり、血液の供給不足の状態となると狭心症、心筋梗塞を発症します。その血液供給不足に、バイパス(脇道を作る)をつなげることで血液供給を十分に補う手術です。

冠動脈バイパス術は、どのような人が受けるの?

①左冠動脈主幹部:この部は、前下行枝と回旋枝の元となる血管で、この部分が閉塞すると左冠動脈全てが障害され、生命にかかわる。
②多肢病変:2枝、3枝病変で、複雑病変、糖尿病患者さん、低心機能(30%以下)患者
③ステント再狭窄:カテーテル治療の複数回患者
④弁膜症(大動脈弁疾患、僧帽弁疾患)の手術時に同時に行う必要のある患者

冠動脈は大きく分けて3本あり、左冠動脈に左前下行枝と左回旋枝の2本あり、右冠動脈に1本あります。それぞれの枝には、たくさんの枝があり、左冠動脈で14-15本、右冠動脈で5-6本あります。複雑病変とは、1本に数か所の狭窄、枝の根本に狭窄が絡んでいるもの。

糖尿病合併
低心機能(LVEF≦35%)
SYNTAXスコア≧23の多枝病変,主幹部病

糖尿病合併例の冠動脈バイパス術は?

血行再建が必要な患者さんの約40%が糖尿病を合併している。

糖尿病例の冠動脈バイパス術後の予後は非糖尿病例に比べて劣ることが知られている。

糖尿病例は術後合併症の発症率が高く,特にインスリン治療は術後死亡,合併症の重要な危険因子である。

糖尿病合併例では、糖尿病の術前、術後の血糖コントロールが重要になる。
術前:HbA1c≦6.5
術後:血糖 180㎎/dl以下
 合併症予防が、予後改善になる。

冠動脈バイパス術に使用する血管は?

内胸動脈:胸骨の脇を走る血管
橈骨動脈:腕(前腕)にある血管
右胃大網動脈:胃の血管
大伏在静脈:足の内側を走る静脈
下腹壁動脈:腹直筋の脇を鼠径部から走る血管

いずれの血管も、バイパスに使用しても、2重支配であったり、もう1本違う道があるため使用することができる。

 左内胸動脈は、左前下行枝動脈へ使われることが多く、開存率に優れている。
 左右両側内胸動脈使用は、良好であるが、肥満やCOPD(肺気腫など)では縦隔炎のリスクとなる。

橈骨動脈は、透析患者さんで動静脈シャントを作成する血管で、腎機能障害や糖尿病性腎症の患者さんは使用できない。

右胃大網動脈は、右冠動脈に近く、右冠動脈の高度狭窄(90%以上)閉塞例には、いい適応となる。しかし、透析患者さんは石灰化をきたしており使用困難が多い。 血管の正常から攣縮(けいれん)することがある。 

大伏在静脈は静脈で使用される血管で唯一、1本でたくさんの血管を吻合するセクエンシャルバイパスに使用される。開存率は5年で50%程度、開存率は動脈グラフトに比べてよくない。

下腹壁動脈は、血管長が短く、開存率が良くない。

冠動脈バイパス術の方法は?

冠動脈バイパス術には、
心臓を動かしたまま行う心拍動下
(Off-pump CABG:OPCAB)
人工心肺装置を使用して心臓を動かしたまま行う
(On-pump beating CABG)
人工心肺装置を使用して心臓を止めて行う
(CABG)
と3通りの方法がある。

 ①は、手術手技的に熟練(テクニック、工夫)が必要。
 ②、③は人工心肺装置を使用するため、手術手技は容易である。

OPCABでの手術死亡,心筋梗塞,脳梗塞の発生率は,リスクプロファイルが高くなるほど著明に低下することが示されている。

冠動脈バイパス術の手術時間は?

 私個人の手術時間では、吻合箇所×1時間くらいで、3か所吻合予定であれば、3時間程度。5か所なら5時間。

 バイパスに使用する血管を剥離、用意するのに少々時間が必要のため。

冠動脈バイパス術の術後経過はどう?

 手術当日に人工呼吸器離脱、翌日から食事、内服開始、リハビリテーション
 7日から10日で退院可能となる。

冠動脈バイパス術後の必要な薬剤は?

 グラフト(使用する血管)の開存目的に、バイアスピリン(アスピリン100mgは必要です。手術前からの抗血小板薬は継続されることが多い。現在ワルファリンは使用しなくなってきた。

冠動脈バイパス術後の合併症は?

術早期は、吻合部やグラフトからの出血がある。
グラフト不全:つなげた血管が閉塞してしまう。
創部感染:手術創の細菌感染。
下腿浮腫:大伏在静脈採取した足にむくみが出る。

冠動脈バイパス術後に気を付ける点は?

高血圧、高脂血症、糖尿病を悪化させないように、生活習慣の改善!!
症状の再発時は、必ず診察をしてもらってください。
再発は十分あり得る話です。

 冠動脈石灰化を偶然指摘された場合

石灰化の程度はありますが、冠動脈に動脈硬化が起こっている所見であり、冠動脈CT検査や心電図検査、心臓エコー検査を進めます。

実際、私の外来でも、胸部CT検査をした際に冠動脈石灰化を認め、症状はないものの冠動脈狭窄が見つかり、心筋梗塞前に治療できた方が多くいます。
 偶然見つかった病気は、放置せずに、数か月以内に精査を、、、、
  ガンが見つかる人もいますので、、、