僧帽弁は心臓の4つの弁のうちの1つで、唯一2枚(前尖、後尖)から成り、左心室から乳頭筋、腱索という支持組織から成る一連の弁組織である。 僧帽弁閉鎖不全症とは、その支持組織の異常(断裂、延長)や弁尖の異常、弁輪の拡大にて、左心室から左心房への血液の逆流を示す病態である。逆流が大きくなると、全身への血液環流の低下をきたすが、拍出量を維持するために左心室の拡大により、血液循環を袂用になる。しかし、代償機転が破綻すると、うっ血状態をきたし、心不全症状が出現するようになる。この時点では、手術りょうほうによる治療が必要になってくると考えられる。
病態
収縮期に僧帽弁が完全に閉鎖せず、左室から左房に血液が逆流する状態。
病因
- リウマチ性:弁肥厚・腱索癒合
- 僧帽弁逸脱症候群(粘液変性):腱索延長・断裂
- 虚血性:乳頭筋不全, 乳頭筋断裂左室拡大、収縮不全
- 感染性:弁尖・弁輪破壊、腱索断裂
- 先天性:多くは狭窄症兼閉鎖不全の形をとる
形態学的分類
- 弁硬化:リウマチ性、膠原病、石灰沈着(加齢、透析患者)
- 弁尖破壊:感染性心内膜炎
- 弁劣隙形成(Cleft):先天性、外傷
腱索の異常:延長・断裂、腱索短縮(変性疾患、感染性、外傷)
弁輪の異常:弁輪拡大、弁輪石灰化
心臓エコー検査:重症の僧帽弁逆流が手術適応となる。
手術適応(循環器ガイドライン参照)
重症1次性僧帽弁閉鎖不全症の手術適応
重症1次性MR 症状あり
左室駆出率30% 以下 | 外科的治療の効果が期待できる場合は僧帽弁手術 |
左室駆出率31% 以上 | 僧帽弁手術(形成術、置換術) |
重症1次性MR 症状なし
左室駆出率60% 以下 OR 左室収縮末期径 40mm 以上 あれば | 僧帽弁手術(形成術、置換術) |
左室駆出率60% 以下 OR 左室収縮末期径 40mm 以上 なければ | 心房細動または安静時肺高血圧(肺動脈収縮期圧50mmHg以上 あれば ⇒ 僧帽弁手術(形成術、置換術) 心房細動または安静時肺高血圧(肺動脈収縮期圧50mmHg以上 なし ⇒ 安全に耐久性のある形成術が可能なら、弁形成手術を! |
重症2次性僧帽弁閉鎖不全症の手術適応
CABGの適応 あり | 僧帽弁手術 |
CABGの適応 なし | 内科的冠動脈治療を優先しても心不全症状あり、心機能が保たれていれば、僧帽弁手術 |
中等症2次性僧帽弁閉鎖不全症の手術適応
CABGの適応 あり | 後下壁バイアビリティ あり ⇒ CABGのみ 後下壁バイアビリティ なし ⇒ CABG、僧帽弁手術 |
CABGの適応 なし | 内科的冠動脈治療を優先しても心不全症状あり 弁膜症チームによる検討。 |
当院では、まず僧帽弁形成術を考慮するが、弁尖肥厚や複雑病変は弁置換術となる。僧帽弁の病態に応じて手術法の選択を行います。
僧帽弁形成術
逸脱弁尖を3角切除を基本に、バタフライ法を行います。また、人工腱索、人工弁輪を使用することで、逆流を制御いたします。 低侵襲手術も行うようになり、右小開胸にて行われるMICS手術も行っております。